今作『星を追う子ども』の発想のきっかけには、小学生の頃に読んで大いに感銘を受けたある児童書があります。まだ十歳に満たない子どもであった自分にとって、その物語にはあらゆる人生の秘密、まだ見ぬ世界の魅力が詰まっていました。初恋、冒険を共にする友達、謎めいた言葉、たとえば水にも味があること、空気にも色があること、大人にも悩みがあること。誰もが自分の知らない顔を持っていること。光も影も生も死も、この世の全ては背中合わせで存在しているということ、それらを知っていく知的な興奮と胸の痛み。

 一年半前に書いたこの作品の最初の企画書には様々なキーワードを散りばめましたが(いわく「喪失の先」「若い観客にむけた現代のファンタジー」「少女の身体性」「居場所を失った少年」「非合理を合理的に選択した男」……等々)、それらは全て、その後の長い制作期間を納得して受け入れるためのスタッフ・自分自身にむけての理由付けだったのだと今は思います。僕たちが観客に届けたいと思っているのは企画書の言葉を精確に再現するための作品ではなく、かつて自分たちを揺さぶったあの物語の感動を味わうことの出来る映画です。そしてそれはジュブナイル(少年少女期に向けた)・アニメーションとしてありたいと考えました。

 『星を追う子ども』は、色鮮やかな世界の中を悲しみと喜びを抱えたままに少年少女が駆け抜けてゆく物語です。僕自身がずっと観たかったアニメーション映画であり、出来るだけ多くの方々にとってもそのようなものであって欲しいと願っています。公開をどうかお楽しみに。

2010年11月 新海誠

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